2026-09-16イベントレポートDX産学連携

学生7チームが岐阜の観光に挑んだ3週間|DigiTech Quest 2026 開催レポート

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DigiTech Quest 運営

2026年8月8日から29日までの3週間、第3回となる体験型DXコンテスト「DigiTech Quest 2026 in 岐阜」を岐阜大学で開催しました。テーマは「岐阜市の観光課題解決」。7チーム・25人の学生が、人流データとAIを手に、答えのない地域課題に挑みました。

最終発表会と表彰式は8月29日。1チーム10分のプレゼンテーションを、独創性・課題解決力・実現可能性・デザイン性・プレゼン力・総合力の6項目で審査しました。

審査結果

最終発表会では7チームが各10分のプレゼンテーションを行い、独創性・課題解決力・実現可能性・デザイン性・プレゼン力・総合力の6項目で審査しました。

  • 最優秀賞 — チーム「二日目のカレー」/路線バスの1日乗車券つき 周遊型 謎解き観光パッケージ(研究奨励金10万円+運営・協賛企業の事業化支援)
  • 優秀賞 — チーム「JRL」/推し活×地域周遊ARアプリ「ぎふっと」(研究奨励金5万円)
  • 優秀賞 — チーム「チーム伊達」/岐阜のアートと工芸をつなぐプラットフォーム「GIFU ART & CRAFT」(研究奨励金5万円)

最優秀賞:チーム「二日目のカレー」──岐阜城から「街」へ歩かせる

最優秀賞はチーム「二日目のカレー」。提案は「タイムトラベル謎解き 〜消えた花嫁と信長様の大作戦〜」、路線バスの1日乗車券がついた周遊型の謎解き観光パッケージ(2,500円)です。

最優秀賞「二日目のカレー」が提案した謎解き周遊のチラシ

物語はこうです。織田信長と濃姫の祝言の朝、婚礼衣装の濃姫が「嫁入り道具」とともに姿を消す。連れ去られる途中、濃姫は嫁入り道具から密かにヒント(暗号)を落としていた。参加者は信長の命を受け、バスに乗って市内に散らばった暗号を解き、濃姫の救出を目指す──岐阜城、川原町、鵜飼ミュージアム、メディアコスモス、柳ケ瀬商店街、岐阜駅を巡る設計です。歴史の知識はいりません。

彼らが向き合ったのは、岐阜市観光ビジョンに載っている3つの数字でした。

  • 回遊性 — 市内観光施設への平均立ち寄り地点数が1.38か所。主要スポットが点在していて、面に広がっていない
  • 誘客層 — 来訪者に占める30代以下が29.6%。体験価値を求める若年層・ファミリー層に届いていない
  • 消費額 — 日帰り客ひとりあたり3,869円。大半が飲食で、体験への支出がほとんど発生していない

現在の観光客像を「岐阜城に行って、飲食して帰るだけの年配の方」と言い切り、理想像を「飲食も体験もして、長時間滞在する全年代」に置く。立ち寄り地点数を1.38から6か所以上へ引き上げる。そこが出発点でした。

謎解きの主役になる信長と濃姫。キャラクターデザインも提案に含まれる

なぜ謎解きなのか

手段の選定にも根拠が置かれていました。市場が伸びている(数千万円規模から10億、40億を経て101.5億円へ)。若者に人気がある(謎解きイベント参加者の83%が20〜30代。20代54%、30代29%)。そして季節に左右されない(鵜飼や灯り物語が手薄になる時期の穴を埋められる)。

ターゲットは、名古屋在住の大学2年生。友人のInstagram投稿で岐阜の謎解きを知った、歴史にはあまり興味がないが友達と遊べる場所を探している──その1人を起点に設計されています。

2,500円に何が入っているか

パッケージの中身は、謎解きキット、路線バスの1日乗車券(指定区間のフリーきっぷ)、岐阜城と鵜飼ミュージアムの入館チケット、そして100円割引券が2枚。これが全部込みで2,500円です。

価格にも理由があります。同種の謎解きイベントの相場は、東京で3,000円(平日料金/キット+地下鉄24時間乗車券)、名古屋で2,700円(キット+バス・地下鉄一日乗車券)。それを踏まえたうえで、「岐阜市を1日かけて楽しむ観光体験そのものに価値がある」という理由づけで2,500円に置きました。

ARで「濃姫の間」に入る

体験の核になるのが、実装まで進んだARです。カメラでQRコードを読み込み、信長像にかざす。画面下部の「濃姫の間に入る(3D空間)」をタップし、スマートフォンを動かして室内を見回す。長押しで前進して「奇妙な紙」をタップすると、謎が現れる──ここまで動く状態で発表されました。

信長像にスマートフォンをかざすと入れるAR「濃姫の間 3D」

謎の問題文は生成AIで作成し、制作コストを抑えています。

事業計画と、その先

販売価格2,500円に対し原価1,800円(バス乗車券・入館料・割引券)、粗利700円。初期費用130万円の内訳は、AR開発60万円、キャラクターデザイン40万円、広報30万円。問題作成は生成AIなので0円です。1年目に1,858個を販売して初期費用を回収し、2年目は2,000個で140万円の利益という計算でした。

運営主体には公益財団法人 岐阜観光コンベンション協会を想定し、参加者が払う2,500円のうち1,800円が各協力団体へ、700円が協会に残り、初期費用の回収後は岐阜市の観光の発展に充てる、という資金の流れまで描いています。

導入までの段取りも6か月で置かれました。1か月目に関係者との交渉(バス事業者、岐阜城、鵜飼ミュージアム、割引券の対象店舗)。2〜3か月目に問題作成とアプリ開発。4か月目に市民を対象としたテストプレイと、街なかへの仕掛けの設置。6か月目にPR(駅構内でのチラシ設置とWebでの告知)。プロモーションの狙いも「岐阜と愛知の人に届ける」と絞りました。岐阜市の観光客は岐阜県民が59%、愛知県民が22.7%で、合わせて約82%を占めるからです。

懸念点も自分たちで書いています。 プロの謎解き集団が問題を作っているわけではない。有名キャラクターとのコラボでもない。だから集客に不安がある、と認めたうえで、参加者目線のPRでARの魅力を伝える、と返しました。

他地域への展開も、条件を特定しています。「有名な観光地には人が集まるが、周辺に流れない。だから滞在時間も消費額も伸びない」という構造を持つ地域。例として挙がったのは、道後温泉と松山城を抱える愛媛県松山市と、三次交通の強化を掲げる静岡県浜松市でした。

チームは大学1〜2年生の4人です。

優秀賞:チーム「JRL」──「観光する」から「相棒と旅する」へ

推し活と地域周遊を掛け合わせたARアプリ「ぎふっと」。利用者が育てたアバター(相棒)を連れて岐阜市内を歩き、現地限定の衣装、AIガイドボイス、AR撮影を楽しむアプリです。チーム名のJRLは、彼女たち自身が名づけた「JK Real Locality」の略。高校2年生3人のチームです。

出発点は、岐阜市観光の4つのボトルネックでした。リピート性(観光資源が5〜10月の鵜飼に依存し、秋冬が弱い。「観るだけ」が中心)、認知度(飛騨高山や白川郷と比べられ「通過点」になりやすい)、滞在時間(名古屋から約20分という好アクセスゆえに宿泊せず帰ってしまう。夜のエンタメが乏しい)、交通(岐阜駅・金華山・川原町が点在し、初見の旅行者にはバス路線が分かりにくい)。

優秀賞「JRL」が示した「ぎふっと」での体験の流れ

この4つに、推し活で1対1の答えを返します。季節に依存しない通年イベントとガチャ更新でリピート性を、「推しアバター×現地」のAR撮影写真がSNSで広がることで認知度を、カフェ巡りや夜間スポットへのQR設置で滞在時間を、相棒がクエスト感覚で案内する回遊マップで交通を。

1人あたり月1円以下で回す

特筆すべきは、運営コストまで詰めていたことです。対話AIにClaude Haiku 4.5を選び、100万トークンあたり入力約155円・出力約775円という単価から、利用者ひとりあたり月1円以下で回せると試算しました。ガイド音声は音声合成API(1時間あたり約55.8円)で、プロの収録なら数十万円かかるところを大幅に削っています。

優秀賞「JRL」が示した、岐阜から他地域へ広げる「ぎふっと」の実装モデル案

「20代女性」ではなく、実在する一人

事業計画は、ペルソナを1人に絞るところから始まっています。21歳の大学3年生、名古屋市在住。2.5次元舞台・Vocaloid・VTuberが好きで、週末は推しのアクリルスタンドを持ってカフェ巡りをする。でも近場の周遊ルートがマンネリ化している。

その人が動く道筋も、4段階で追いました。認知(友人のX・Instagram投稿を見てアプリをダウンロード)→ 準備(相棒を作り「岐阜城〜柳ケ瀬」を計画。ガチャで衣装に500円課金)→ 現地(ARマップに沿って回遊し、店舗のQRを読む。店舗で1,200円消費)→ 拡散(AR写真をInstagramストーリーズへ。「来月は友達も誘おう」)。

相棒アバターと会話し、行き先を決める「ぎふっと」のホーム画面

三方向から、価値の対価として取る

収益は3つ。利用者課金(250〜500円/回)、加盟店(月1万円+送客100円/件)、自治体・DMO(年300万円〜)。それぞれに「なぜ払うのか」が書かれています。利用者にとって現地限定衣装は旅のデジタルお土産であり、SNS投稿まで含んだ体験の対価。加盟店にとっては若年女性を狙った集客費で、月10〜15人の送客があれば回収できる。自治体にとっては、紙のアンケートでは取れない若者の滞留・周遊データが手に入る。

黒字化の条件は1行で示されました。加盟店50店舗+課金利用者1,000人。そのとき月商100万円(店舗50万円+課金50万円)、ストア手数料を引いた粗利が85万円、固定費30万円を引いて営業利益は月55万円になります。

来月、誰が何をするか

実行計画も「体制を構築する」では終わりませんでした。1か月目に柳ケ瀬商店街の振興組合を訪ね、レトロ喫茶など5店舗へ無料体験モニターとしてQRスタンドの設置を依頼する。同時に、賞金から約15,500円をAIのAPIにチャージしてベータ版を作る。2〜3か月目に近隣大学の学生5名を推し活アンバサダーとして派遣し、柳ケ瀬から岐阜城までの回遊ログとSNS露出を取る。4〜5か月目に岐阜市の担当課へ実証データを示し、翌年度の観光活性化委託事業として提案する。6か月目に正式リリースし、加盟店30店舗を目標に、「信長まつり」などと連動した限定イベントを開催する──担当者名まで入った計画でした。

優秀賞:チーム「チーム伊達」──「見せられる文化」を「買える・体験できる文化」に

提案は「GIFU ART & CRAFT」。岐阜のアートと工芸を、知る・体験する・買う・つながるの4つでひとつにまとめたプラットフォームです。最終発表の時点で、プロトタイプが動いていました。

優秀賞「チーム伊達」が提案したプラットフォーム「GIFU ART & CRAFT」の全体像

岐阜市の「分断」を見る

市民が誇りに思う観光資源のアンケートでは、岐阜メディアコスモスが39.9%、伝統文化工芸(うちわ・提灯・和傘等)が34.3%と上位に入ります。ところが年間の来訪は、前者が延べ135万人なのに対し、後者は数万人規模。強い観光資源はあるのに、周辺の作家・工房・店舗への消費導線が切れているという診断です。

彼らが最初に否定したのは「ITを資源にする」発想でした。それは失敗例が多い。対して「すでに根付いた資源を接続する」なら成功例がある。だから方針は、岐阜市の芸術をDXで接続する、の一点に絞られました。

扱う領域は工芸だけではありません。現代美術、写真・映像、音楽・舞台、デザイン、工芸。ターゲットは、アート・建築・工芸に関心があって、すでに岐阜の観光名所に来ている個人です。

知る・体験する・買う・つながる

利用者の導線は5段階で設計されています。

  • 知る — 作家や工芸、作品の物語を知る
  • 体験する — 工房見学や制作体験を予約する(和傘づくり5,500円〜、陶芸4,000円〜、提灯絵付け3,500円〜)
  • 買う — 作品を購入する。法人購入の相談もできる
  • つながる — 作家をフォローして応援する。単発でも月額でも支援できる
  • 旅行後も — 新作の購入や支援が続く。別の地域の作家も探せる

作り手の側にも管理機能を置きました。作品・在庫・価格・体験枠の登録、注文と予約の管理、支援者とフォローの管理、売上・支援金・入金の管理、そして閲覧・保存・購入データの分析。売上の91%を作家・工房に還元する設計です。

「チーム伊達」が設計した、知る→選ぶ→訪れる→体験・購入→つながるの導線とKPI

Art Pass は入口であって、柱ではない

入口になるのが「Art Pass」。1DAY 600円、2DAY 900円、2DAY+ 1,500円で、加重平均780円。ただしチームはこう言い切りました。

パス200枚は収益の柱ではない。顧客獲得と回遊データ取得の入口。

流入の見積もりも具体的です。初期は月200セッション。内訳は現地QRが60、観光サイト等が80、検索・SNSが60。3か月で累計600訪問、パス50枚、購入率8.3%。そのうえで、自分たちの前提の弱いところを名指ししています。

QRだけでは足りない。公式観光サイトからの送客導線を確保する。

払うのは誰か、いくらか

使う人は観光客、最重要顧客は企画費を払う地域企業、という切り分けです。優先度1が地域企業の協賛(年60〜120万円/CSR・地域ブランド・社員体験)、2が法人企画の発注企業(展示1件100〜150万円/空間演出・贈答品・顧客体験)、3が自治体(年間100万円以内/実証・回遊データ・成果報告)。自治体は信用と実証の顧客であって、利益の中心は地域企業と法人企画だと位置づけています。

年間756万円の収益モデル。売上の約9割をB2G・B2Bでつくる

年間では売上756万円に対し経費600万円、営業利益156万円。固定費400万円の損益分岐は「自治体100万円+ブランド支援2社+空間アート2件」で+16万円。アート活用支援は年間3社を取れば超える、という組み立てでした。

競合も正面から並べています。ArtSticker/The Chain Museum、Craftie、OVER ALLs。そして自分たちの弱点(実績・作家数・法人営業力が未検証)を赤字で書いたうえで、「全国の機能競争を避け、岐阜での供給密度と現地運用で勝つ」と結論しました。

岐阜で型を証明してから、地域に渡す

横展開の設計も、本部が全部を抱える形ではありません。本部はシステム・決済・契約と知財・データ分析・法人商品を共通化し、作家開拓・法人営業・展示と体験の運営・地域発信は地域が担う。「全国統一の中身を押し付けない」という一行が添えられています。

3か月で小さく実証し(継続条件は予約・購入の転換率5%以上)、1年で岐阜モデルを成立させ(継続条件は営業利益106万円)、3年で3地域へ。単一自治体への依存は20%未満に抑えるのが目標です。

岐阜でやる理由は3つ挙げられていました。観光客を呼ぶ入口がすでに存在する。「見せられる文化」ではなく「買える・体験できる文化」がある。そして岐阜市自身が「回遊性と域内消費」を課題にしている。

残る4チームも、それぞれの切り口で

チーム「ライチョー」、チーム「養殖新鮮魚」、チーム「freeee drive」、チーム「シナプスジャンパーズ」。柳ケ瀬のMICE活用と次世代リーダーの越境研修を提案したチームもあり、7つの提案はどれも重なりませんでした。同じ課題を渡されて、7通りの解き方が出てきたことになります。

人流データを、学生が初めて手にした回

第3回の最大の特色は、データでした。特別協賛の株式会社NTTドコモのもと、株式会社ドコモ・インサイトマーケティングが提供する人流データ「モバイル空間統計®」を、本コンテストで初めて学生チームが分析・活用しました。

いつ、どこに、どれだけ人が動いているか。客観的な数字を起点にすると、勘や印象で語っていた「にぎわい」が、数字と食い違う瞬間が出てきます。学生はそこから逃げずに、提案を何度も作り直しました。課題そのものは、公益財団法人 岐阜観光コンベンション協会が、現場の観光振興にもとづいて提供しています。

審査委員長は株式会社NTTドコモ 関西支社 カスタマーサクセス部長の杉浦 正宏氏、審査員は株式会社岐阜文芸社 代表取締役の飯尾 賢氏が務めました。

受賞アイデアが、会社になる

DigiTech Questは「コンテストで終わらない」ことを重視しています。

第2回(2025年)の最優秀賞アイデアである校務DXサイネージ「キミテラス」は、そのまま事業化され、2026年2月に株式会社Rebounderの設立に至りました。学生起業です。そして同社は今回、協賛企業として後輩を支える側に回りました。

学生のアイデアが会社になり、その会社が次の学生を支える。3年目にして、この循環が形になりつつあります。今回の最優秀賞チームについても、運営・協賛企業の支援のもとで実装に向けた検討を進めています。

開催概要

  • 名称:DigiTech Quest 2026 in 岐阜(第3回)
  • テーマ:岐阜市の観光課題解決 ── 日本の観光を救うモデルを作る
  • 会期:2026年8月8日(土)〜8月29日(土)/キックオフ 8月8日・9日、自主活動期間 8月10日〜28日、最終発表会・表彰式 8月29日
  • 会場:岐阜大学 全学共通教育F棟 アクティブラーニング教室
  • 参加者:7チーム・学生25人
  • 参加費:無料
  • 主催:岐阜大学社会システム経営学環/地域ラボ・岐阜/地域ラボ・中津川
  • 運営:株式会社ウォーカー
  • 特別協賛:株式会社NTTドコモ
  • ゴールド協賛:株式会社電算システム
  • 協賛:株式会社岐阜文芸社、合同会社HighBridge、株式会社トライネット、株式会社Rebounder、次世代AI教育株式会社 東京支社、株式会社ソキュアス、渋谷 典之、柘植 沙織
  • 課題提供・協力:公益財団法人 岐阜観光コンベンション協会
  • 賞:最優秀賞 研究奨励金10万円+運営・協賛企業の事業化支援/優秀賞 研究奨励金5万円

次回に向けて

座学では得られないのは、「実社会の課題を、自分たちの手で形にする」経験です。企業の現役担当者や経営者が審査とメンタリングに加わり、学生は社会人と同じ目線で、営業講習から中間報告、最終プレゼンテーションまでのプロセスを踏みます。

私たちが渡したかったのは正解ではなく、AIとデータを使って自分で考え、形にするまでの経験でした。3年目にして、その経験が起業や地域での実装につながり始めています。

第4回の開催情報は、決まり次第このサイトでお知らせします。過去の開催内容はイベントページからご覧ください。